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大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)433号 判決

控訴人 横田たか

被控訴人 砥堀好子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

(但し、原判決主文第一項被告横田宗之とあるのを亡横田宗之と訂正する。)

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人は適法な呼出をうけながら本件口頭期日に出頭しなかつたが、陳述したとみなされた準備書面により本件控訴を棄却する旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、控訴人に於て「相控訴人横田宗之は昭和三八年三月三一日死亡した。従つて控訴人と右横田宗之との間に親子関係の存在しないことの確認を求める本訴請求は、右宗之の死亡により実益実損とも生じ得ない無意味なものである」と述べ、乙第三号証(戸籍謄本)を提出した外は、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

当裁判所は被控訴人の本訴請求はこれを正当として認容すべきものと判定した。その理由は左記の如く訂正附加する外原判決理由のとおりであるから、こゝにこれを引用する。

原判決理由第一行目「成立に争のない」とある部分を削除し、同第六行目「原告と姦通した」とあるのを「当時未婚の原告と情を通じた」と訂正し、又原判決終りから二枚目裏一行目かりに以下同裏終りから二行目までの箇所を削除し、右箇所に、およそ母と非嫡出子間の親子関係は捨子等の如く当初不明であつた母が後にあらわれたような例外的な場合の外、本件の如く当初より被控訴人と横田宗之との母子関係が明白であつた場合には右母子関係は被控訴人の認知をまたず分娩の事実により当然発生するものと解すべく、(昭和三七年四月二七日最高裁判決民集一六巻七号一二四七頁)従つて右母子関係発生には被控訴人の認知を必要とするとの見地に立つ本件当事者の主張は理由がないと挿入する。

又控訴人は右宗之死亡により本件請求は実益、実損とも生じないことになつて無意味であると主張するが、成る程右宗之の死亡により(同人が昭和三八年三月三一日死亡の事実は乙第三号証の戸籍謄本により明かである。) 被控訴人並びに控訴人と右宗之との間には現実の日常生活関係に於てもはや母子としての関係は生じ得ないけれども、戸籍上控訴人と右亡宗之とが母子として取扱われる反面、被控訴人と右宗之との間に母子関係はないとして取扱われる関係は右宗之の死亡によつても尚本件当事者双方の生活にとつて甚大な影響をもつ現存の表見的身分関係であつて、控訴人と右亡宗之との母子関係不存在確認を直ちに過去の法律関係の確認とみるのは相当でなく、仮りにこれを過去の法律関係の確認とみるべきであるとしてもこれを真実に合致させることは公益的事項に属するのみならず、これによつて右不実の戸籍上の身分関係から派生する個々の身分上の混乱を一挙に根本的に是正することができる一方相続面に於ても戸籍上被控訴人が右宗之の直系尊属として右宗之の相続権を有することを明かにする結果となるから本訴は尚訴の利益があるものというべく(親子関係の存否にもとずいて生ずる個々の法律効果を主張する通常訴訟の提起が可能であり、右訴訟手続に於て、前提問題である親子関係の存否を主張し、その判断を求め得るからといつて、本訴が訴の利益を欠くとみなければならぬ訳ではないと解する。)親と子とのいずれか一方が生存している限り生存せる者を相手方として提起できると解するのが相当であるから、本訴は適法として許容されるべきである。(昭和一九年三月七日言渡大審院判決は強制認知の確定判決によつて形成された父子関係の不存在確認を利害関係ある第三者が訴求するものであり、昭和三四年五月一二日言渡最高裁判所判決民集一三巻五号五七六頁は親子双方とも死亡後の親子関係不存在確認請求にかゝるもので本件の如く真実に反する戸籍上の親と子の一方が生存している場合には必ずしも適切でないと解する。)

よつて原判決は相当で本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく(但し、相控訴人横田宗之死亡により、被控訴人と右宗之間の訴訟は当然終了し、従つて原判決主文第一項中被告横田宗之とあるのはおのずから、本籍京都市中京区西ノ京北円町五番地筆頭者横田宗正の長男亡横田宗之と変更されることになる。)控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宅間達彦 増田幸次郎 井上三郎)

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